小径自転車、アレックス・モールトンのあるサイクリング・ライフ&オリジナルグッズをご紹介しています。


日本最後の清流、四万十川。アウトドア好きじゃなくても、この言葉を聞いただけで胸が高鳴る人は多いでしょう。キャンプやカヌーが有名なのは知っていましたが、サイクリストたちにとっても憧れの地である事をインターネットで知りました。
 大好きなキャンプ&カヌーに加えて、最近好きになってきたサイクリングも楽しめるなんて!と私と大澤は当然のごとく盛り上がり、夏の連休を使って四万十川に行ってみることになりました。
 ただひとつ、気になるのは、果たして我が家の愛車カントリーマンに、ファルトボートという折り畳み式のカヌー・キャンプ道具・2台のモールトンが積めるかどうか?そして、大阪から、あの広い高知の果てまで走っていけるかどうかでした。
  カントリーマンは、ミニの仲間で製造されたのが1960年というとても古い車です。大量の荷物を積んでトラブルなしにロング・ツーリングができるかどうか?真夏のミニの厄介さは、尋常ではありません。それにクーラーもありませんから、私たち自身の体力にも不安があります。この大きな問題に対して導いた私たちの回答は案外シンプルで「とりあえず行ってみよう!止まったら、その時に考えよう!」でした。
 カントリーマンに、やっと二人して2台お揃いになったアレックス・モールトンを積んで四万十を目指す!そんなささやかな冒険に、私たちは身体がシビれるほどのロマンを感じたのでした。

朝早、大阪市内を出て、目的地の四万十川の江川崎に着いたのは、夕方5時すぎ。暑くて過酷なドライブだったけど、なんとか約10時間をかけて辿り着くことができました。まずは四万十川の様子を見に行きます。夕暮れ時の四万十川は、くすんだ濃い緑色をしていました。河原には、すでにポツポツとテントが張られています。私たちも早々にテントを張れそうなスペースを見つけて、車高が極端に低いカントリーマンでもなんとか入れそうな場所まで入りました。

近くのスーパーマーケットで買っておいたビールでまずは無事到着の祝杯。ビールを飲みながら、テントとタープを張りテーブルとイスを並べて、やっと落ち着ける我が家の出来がりです。
  続いて組み立てたモールトンに乗って近くの温泉に行った後、ふたたび河原に戻り、夕食の支度。四万十牛のステーキ、あさりのバター蒸し、パスタ、サラダなどを作って、赤ワインと一緒にゆっくりと味わいます。
 ザザーという絶え間ない川の音が聞こえます。ランタンの明かりが届くところが、私たちの視界。その先は、まったくの暗闇です。
  「星を見よう!」とランタンを消し、タープの外に出て河原に寝転がると、石の温度が背中にひんやりと伝わってきます。昼間はとても裸足では歩けないほど熱かったのに・・・と思いながら、空に向かって目を開くと、大阪では決して見られない大粒の星たちが、今にもこぼれ落ちそうに輝いていました。
 毎日、見たり、聞いたりしている事がこの広い世界のごくごく一部にすぎないと思えてきます。世の中は、知らない事だらけ。 自然に触れあうって、すごい事だな・・・。自然はいつだって、自分たちを否定せずに迎えてくれる・・・。私はまばたきを我慢して、四万十の星空に見入りました。

翌朝、テント、タープ、カヌーを河原に残し、カントリーマンで下流の「口屋内」に向けて四万十川沿いの国道441号線を走ります。先に車で下流に行くのは、川を下った後のカヌーをピックアップするのに車が必要だからです。そして「口屋内」からカヌーが置いてある上流に戻る足は、もちろんモールトンです。

車の窓から、口屋内の河原が見えてきました。四万十川のメインスポットだけあって、河原にはたくさんのテントやタープが張られています。河原の隅に車を止めてモールトンを組み立てて、いよいよサイクリングがスタート!
  まずは、今さっき車で渡ったばかりの口屋内沈下橋を渡らなくてはいけません。沈下橋というのは、大水のときに水面下に沈むように作られた橋のことで、一番の特長は欄干が無いこと。四万十川は洪水時の増水が世界でも類を見ないほど多く、橋が水流の抵抗なく沈んでくれるよう考えて作られたといいます。石造りの古い橋はどこか可愛くもあり、ノスタルジックな気分にさせてくれます。
 欄干のない橋というのは、自転車で走ってみると正直ちょっと怖い。橋には充分な幅があるのに、自転車ごと川に落ちたらどうしよう?とつい考えてしまいます。そういう想像をすると、なぜだかフラつくもので、とてもぎこちないスタートになってしまいました。

川沿いの道は、ほぼ平地だからサイクリング初心者の私でも足に力を入れることなく快調に走ることができました。今、思えば、この頃はギアチェンジの仕方もうろ覚えで、必要性もあまり感じていませんでした。正真正銘の初心者です。
  南国ならではの濃い緑の息吹を含んだ美味しい空気を味わい、爽やかな風を全身で感じながら走る。地元のおばあさんの日焼けした顔、道を覆うように茂る蔓草、きらめく木漏れ日・・・。なんだろう、この感じ。瞳にフィルターがかかっていて、映像をスローモーション再生しているような感じ。大好きな映画を観ているような・・・いや、映画の世界に自分が入っているような感じ。何もかも見逃したくない、そして、ゆっくりと味わいたい・・・不思議な感覚にとらわれて走っていると、雨が降ってきました。
 サーッと、まるで化粧水のミストのように細かい雨、それは信じられないほど軽くて、いい匂いがしました。遥か向こうに広がる空は、青く晴れ渡っています。太陽に向かって、走っていく・・・。来てよかった!この道が大好きだ。

約1時間ほど走って江川崎の河原に戻った後、カヌーに乗り換えて、今度は四万十川を下ります。濃厚な緑色に輝く水面をカヌーで滑り、気が向いた河原で休憩したり、釣りをしたり。のんびりと川下りをしていると、心も身体も丸洗いしているような気分。何もかも忘れて遊びに没頭している自分に気が付きます。
  四万十川に情緒を添えるように架けられた数多くの沈下橋では、大人も子供も「夏休みの少年」になって、飛び降み遊びをしています。誰かが橋のうえから飛び降りるたびに、河原全体が盛り上がる。知らない人同士、目を見合わせて大笑いしている。
  雰囲気につられて大澤が先に飛び込み、私は橋の上で30分ほど悩んでから、飛び込みました。
 夏真っ盛りの日射しが、四万十川の水面を照していました。