

9時前のエーグル駅前。「ハァ〜イ!」と、昨夜のメンバーがどこからともなく集まってきた。「昨日はどうも〜」とお話ししながら、まずはみんなの自転車をチェック。
約20台ほどのなかに、とてもキッチュなデザインのステッカーがいっぱい貼り付けてある自転車を見つけた。あまりにも可愛くて見つめていたら「このステッカーは、アルプスを登った時の記念なんだよ。それとこのステッカーはね・・・」とスイス・モールトンクラブ会長のマッシモさんが説明してくれた。
ヨーロッパには自転車で山を登るイベントが頻繁にあるらしく、彼は完走するたびに貰った記念ステッカーをコレクションしているという。

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9時すぎ、集合の挨拶も何もなく、なんとなく一列になって走りはじめた。国もバラバラなら、自転車の色も乗り方もバラバラなモールトニアたちが連なっている。年齢も10歳代から60歳位まで幅広い。
「気持ちいいな〜。キレイやなぁ〜」を繰り返す大澤は、走りながら何度もジャンプを繰り返してはしゃいでいる。「ホイール、曲がっても知らんで!」と思いながら果てしない田園風景のなかを走り、薄い雲をいただいたアルプスの山々を見上げると、つい深呼吸をしてしまう。
なんか無性に嬉しくなってきて、峠の坂道に差しかかった時、私は精一杯のスピードで坂を上ってしまった。一番後ろから、いきなりトップに躍り出た私を、みんなが「oh!!!」と笑った。

休憩は、街を一望できる丘の上。大木の木陰でとりあえず汗を拭いたものの、ボトルゲージに水を入れてくるのを忘れていた。喉が乾いているうえに、お腹も減ってきていた。ふとみんなを見ると、小さなパンやリンゴをかじったり、お水を飲んだりしている。
「お、お腹へったぁ・・・」一度、気になりだすと、たまらなくなってしまう。行儀悪いと思いながらも、人のパンをじっと見てしまう。自転車に乗っていて、空腹ほど惨めなものはないなぁと、大澤と二人してお腹をなでた。
大木の丘を後にして山道を下ると、ひとり、ふたりと自転車を止めて降りているので「もう、休憩するの?」と思ったら、道ばたに大きな水瓶があった。石を削ったバスタブのような瓶に、どこから引いているのか分からないけどホースの水が注がれていた。
「みっみず!!!」と思ったけど、果たして飲めるのかな?と眺めていたら、みんなが水筒にそのお水を入れていた。水筒を持っていなかった私はバスタブ?に駆け寄り、お水を両手に受けて飲んだ。甘く甘く、水の奥にある味が分かる。私は空腹を満たすように、その甘いお水をたっぷりと飲んだ。

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40キロほど走った頃、ワールド・サイクリング・センターという近未来的な建物の前で、さらに10数人のモールトニアがツーリングに加わった。なかには7〜8歳ぐらいの小さな女の子もいた。赤いAPBに乗って、辺りをクルクルと走って遊んでいる。
子鹿のようにかわいくて目で追っていたら、視線に気付いてサーッとママのうしろに隠れてしまった。こんな小さな子が、これから大人と一緒に30キロも走るのか・・・と思うと心から感心した。
みんなで記念写真を撮った後、また誰からともなく走りはじめた。ツーリングのコースはいつも舗装路という訳じゃなかった。畑のあぜ道や、山道も走ることが多かった。私は転んでみんなに迷惑をかけちゃいけないと、いつもより気をつけて走っていた。
小さな女の子は、どんな道もへっちゃらで、真剣な顔をしてペダルを踏み続けていた。

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お待ちかねの昼食は、遊園地のような公園にあるガーデン・レストラン。バイキングのカウンターには、キラキラの前菜類、新鮮そのもののサラダ、魚介、お肉、何種類あるのか分からないぐらいのパン、フルーツ・・・がずらりと並んでいた。
この旅に出てから、パン、チーズ、ハムといったハイジ的な食事が続いていて、野菜不足を気にしていただけに、このバイキングはとても嬉しかった。
白ワインで乾杯!して、まずは前菜を口にほうり込む。「うめ〜!」と羊になってしまった私と大澤。本当に素敵なレストランで、お料理もとても美味しかったのに、食べるのに集中し過ぎてしまい、残念ながらここではたった一枚の写真も撮っていない。
食後のコーヒーを飲みながら「明日からどうするの?」とメンバーに聞かれた私たちは、まずパリに行って、ミラノに寄って、日本に帰ると言った。
「いいわね〜。自転車と一緒に?」と聞かれた私たちは「オフ・コース!」と、ワイングラスをかかげた。
ランチの後、また誰からともなく走りはじめた。 途中の道には、美しい小川のせせらぎがあった。白鳥の群れが、水辺で休んでいるのを見た。白い馬に乗った、聡明そうな女性とすれ違った。雷で焼けてしまった森を見た。
思いついてはいつも、空の彼方のアルプスを見上げていたと思う。それは気が遠くなるほど、美しい景色の連続だった。
少しづつ、日が暮れてきていた。私たちは一列になって背の高いトウモロコシが左右にひろがる一本道を走り続けていた。トウモロコシ畑の中だから、標識もないし、ここがどこなのかはさっぱり分からない。気が付くと一本道は行き止まりになっていて、左右に分かれる新しい道が続いていた。みんながそこで自転車を降りて、後から走ってくるメンバーを待っていた。そして、全員が揃ってなんとなく輪になっていた。

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「楽しかったわ。それじゃ、またね」と、みんなが私たちに握手を求めてきてくれた。
みんなが抱き合って、別れを惜しんでいた。私も仲良くなった女の人と抱き合った。猛烈に寂しくなった私は、小さな女の子に駆け寄って、バイバイと言った。彼女ははにかみ笑いしながら、バイバイと言ってママの後ろに隠れてしまった。
別れのひとときも潮時を迎えた頃 「また来年、会いましょうね」と私たちは二つのグループになり、夕焼け空の下を左右に分かれて走りだした。

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ホテルの部屋に戻りシャワーを浴びた後、持ってきていた中で少しいい服を着た。スイス最後の夜だからと、2〜3人のメンバーがお食事に誘ってくれたのだ。レ・マン湖沿いのレストランでシャンパンを飲み、今日のツーリングを振り返ったり、お互いの仕事の話をして楽しく過ごした。
あっという間に夜が更け、みんながホテルまで送ってくれた。「またね!よい旅を!」と声をかけられ「ありがとう!また、来ますね!」と私たちも応えた。
「来年は、絶対にイギリス!ブラッドフォードやな!」と、まだ旅の途中なのに、次の旅に思いを馳せている大澤。
「来年?!まさか!」と驚きながらも、いつか実現したら素敵だなぁと星がさざめく夜空を見上げた。
予告
スイス・フランス・イタリア輪行は、数回のシリーズに分けてお届けします。
翌日はTGVでパリへと移動!
次回のレポートにご期待ください。